続きです。


病院に到着。助産師さんが出迎えてくれる。小柄で優しそうな人。

案内される途中にも痛みが来て、壁に手をついて耐えていると、助産師さんが腰をさすって、呼吸のタイミングをはかってくれた。それが、明らかに痛みがふーっと楽になる感じで、感動してしまった。やっぱりプロってすごい。

まず内診をする。子宮口が4センチひらいているとのこと。昨日の検診では閉じていたのに。「明日の朝には生まれるでしょう」と言われる。へえ、そんなもんか……と思う。

ちょうど病棟で夕ごはんが出るくらいの時間だったので、「ごはん用意してもらいましょうね」と助産師さんが言う。「えー…食べれるかなあ…」とわたしは言ったが、「食べたほうが絶対に出産が楽よ」とのことだった。


LDR室に入る。

照明ちょっと暗めの部屋。

着替えたり、機械をつけられたり、立会いの確認をされたり、なんだか忙しい。

機械はNST検査の時のと同じやつみたいだった。赤んぼの心拍をはかっている。ボッボッボッボッというような音がずっと聞こえる。

どんどん痛みが強くなってきた。はじめはベッドに手をついて呼吸をきちんとしてやり過ごせたのに、途中から片足でぱたぱたと床を叩くようになり、ベッドに上がってと言われてからは手すりを握って体を丸めて必死で耐えるようになった。痛さのあまりベッドの柵を足で蹴ったりした。

たぶんこのあたりでだったと思うが、子宮口が7センチとかいわれて、予想が早まって「日付が変わる前に生まれるでしょう」と言われていたのがさらに早まって「あと2時間で生まれるでしょう」になって、両親がいったん帰っていった。

わたしは、苦しんで我を忘れているような状態を両親に見られたくなくて、「恥ずかしいからいなくていい」と言ってあった。父親はもとより見たくなどなかったみたいだが(臨月のナマ腹も見たくないと言う人だった)、母親は「部屋の中でなくても、病院の近くにいたい」と言っていた。「見たい」のではなく、気がかりで仕方ないからそばにいたい、という感じだった。なので母親は家族の夕飯の用意をして、それから戻ってくるつもりだったようだ。

わたしのそばには彼だけが残った。


陣痛中も休みの間もほとんどずっと目をぎゅっとつぶったままで、まわりを見ていなかったせいもあり、

このへんからわたしの記憶はたよりない。

なので前後関係が定かでないのだが、覚えていることを書いていこうと思う。


陣痛は、体の中で大きなカタマリが下に向かってドスンドスンと叩きつけられるような感じだった。「突き上げる」の逆バージョンみたいな。
静かなお産にしたかったが、そううまくはいかなくて(笑)、それなりに悲鳴はあげてしまった。

仰向けになるように言われたが、痛くてできなくて「仰向け無理~」と言った。

採血だか点滴だかのために注射されるときも、「動かないで」と言われたのだが、陣痛が来ると痛すぎて体が跳ねるので、難しい。

呼吸もうまくできなくなってくる。汗びっしょりになった。

それでも、助産師さんには「いい陣痛きてるよ」と言われ、「そうそう上手」みたいなことも言われ、順調に進行しているようだった。

彼曰く、わたしがきちんと呼吸をして上手に力を抜くと、赤んぼの心拍が上がったそうだ。だから彼は「(赤んぼに)酸素あげてー」とわたしに声をかけた。

気がついたら分娩用にベッドが変形させられて、わたしも足を上げて固定されていた。医者とナースが呼ばれた。

途中で助産師さんの手で破水させられた。羊膜が破れないまま出てきちゃってて見えてる、とか言っていたと思う。丈夫な羊膜だったんだなあ(笑)。破いてもらうと、温かい水がびしゃーっと出てくる感覚があった。「びしゃびしゃや~」とか言ったような気がする。

彼はわたしの頭の左側に立っていてくれた。陣痛が来るたび、彼の服の首あたりを掴んで耐えた。彼は中腰でしんどかっただろうと思う。わたしがあんまり首元を引っ張るので、彼は「セーターが伸びる」と思って1枚脱いだそうだ。

必死ではあったがわたしはまだ少し冷静で、「きついー」などと、いたって普通の感想をもらしていた。陣痛と陣痛の間の休みが短くなってきて「休憩がないよー」と言ったりもした。

痛すぎて陣痛の合間も下半身がわなわなしてるので、陣痛と休みの境目がよくわからなくなってきていた。

頭が見えてからがけっこう長かった。

髪の毛が2センチくらいあるとかなんとか、彼と助産師さんが会話していた。

よくきく「いきみたいのを我慢する」とか「いきみ逃し」とかそういう感じがないまま、出す段階に入っていた。たぶん進行が早すぎたのだろう(笑)。

途中までなんとなく加減していきんでいたが、長いので疲れてしまい(「疲れたー」と言った覚えがある)、もう切れちゃってもいいやと思って思い切りいきんだ。

助産師さんが「いいよー」みたいなことを言った。だいぶ出たのだろう。


丸いかたまりがずるっと出てきた感触があった。

すぐに産声がきこえた。

その瞬間何を思ったのか、覚えていない。

目の前の光景をただ見つめて、ぼうっとしていた。

現れたそれは確かに人間の赤ん坊だった、それが何か不思議な気がしたのかもしれない。

彼が言うには、目を見開いてポカーン状態だったそうだ。